機械翻訳を最大限に活かすMTPEとは

翻訳

機械翻訳を導入したものの、翻訳品質が思ったより良くなく活用できていないという担当者の方もいるのではないでしょうか。機械翻訳を上手く活用するには、機械翻訳後に人手によるチェックや修正の過程が不可欠です。今回は、機械翻訳を最大限に活かす手法や考え方についてご紹介していきます。

MTPEとは

機械翻訳で生成された訳文を人間の翻訳者が修正する作業のことを「MTPE(Machine Translation Post-Editing)」と呼びます。日本語では「機械翻訳ポストエディット」と呼ばれることがありますが、シンプルにMTPEと呼ぶことが一般的です。元々、ポストエディット(Post-Editing)という言葉は、人手による翻訳の後にチェックと修正を行う工程として存在していましたが、ニューラル機械翻訳が一般に広く使われるようになって以降、より注目を浴びるようになりました。つまり、機械翻訳により翻訳効率を高めつつ、翻訳者によるチェックと修正により効率と品質の両方を兼ね備える手法として、ポストエディットに新たな脚光が当たったのです。実際、翻訳業界では、機械翻訳時代の業界トレンドを見越して、国内外の翻訳サービスプロバイダの多くが、人手による翻訳に加えて、MTPEをサービスラインナップに加えるようになっています。

MTPEが注目されている背景

冒頭でも触れたように、MTPEが注目されている背景には、Google翻訳などのニューラル機械翻訳の台頭があります。ニューラル機械翻訳は、その自然で流暢な訳出が評価され、ビジネスシーンでも広く使われるようになりました。機械翻訳の技術は、年々高まっていますが、その一方で、機械翻訳だけでは人手翻訳と比べて品質が劣るケースも多く、実用面での課題となっていました。そこで、機械翻訳と人手翻訳のメリットを掛け合わせた手法が採られるようになり、機械翻訳により翻訳作業を効率化しつつ、人手翻訳により一定の品質を担保する方法が一般的になっていったのです。

MTPEでどの程度の品質を求めるかは一定の基準がある

翻訳の「品質」について、発注者と受注者との間であらかじめコンセンサスを形成しておくことは大切です。発注者と受注者で期待する「品質」に違いがあると、翻訳成果物を納品した際に思わぬトラブルになるとがあります。そのため、ISO17100や日本翻訳連盟では翻訳品質について一定のガイドラインを設けています。

MTPEについても、ポストエディット後の翻訳品質をどの程度の水準まで持っていくかによって、フルポストエディット(Full Post-Editing)とライトポストエディット(Light Post-Editing)に分けることができます。前者は最初から人間が翻訳した場合と比べても変わりのない、正確性や流暢性を担保する品質水準で、後者は人間による手直しを最小限に抑え、機械翻訳の訳文を最大限に活かす場合の品質です。ISO(国際標準化機構)では翻訳(ISO17100)とは別にポストエディットの国際規格(ISO18587)を設けており、二つのポストエディットは次のように定義づけられています。

フルポストエディット
人による翻訳によって得られる製品に匹敵する製品を制作するためのポストエディットのプロセス」(ISO18587:2017, 3.1.5)

ライトポストエディット
人による翻訳によって得られる製品に匹敵する製品を制作しようとすることなしに、単に理解可能なテキストを得るためのポストエディットのプロセス(ISO18587:2017, 3.1.6)

つまり、機械翻訳の出力結果に対して、どの位人の手を入れるかという程度による分類が上記でなされています。実務上では、社内やチームで回覧するためのドキュメントの翻訳は、固有名詞や数字、あるいは明らかな誤訳のチェックと修正だけのライトエディットで、グローバル本社や海外の顧客に提案するドキュメントなどは、文化的なコンテクストや業界用語の適切な訳出をするためにフルエディットでなど、そのドキュメントがどのような文脈で使われるのかという点でポストエディットのレベルを決めると良いでしょう。

今回はMTPEについて簡単にご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。機械翻訳時代の翻訳は、機械による効率化と人の手による品質保証を上手く掛け合わせていくことが重要です。MTPEを上手く活用することで、翻訳にかかるコストや時間を削減できる可能性があります。この機会に、MTPEを中心とした翻訳体制を作ってみてはいかがでしょうか。

次回は翻訳の「品質」とはなにか、どのように品質を定義づけ発注者・受注者・社内でコンセンサスを形成していくかについて考えてみます。