MTPEに向いている分野、向いていない分野

翻訳

Google翻訳やDeepLのニューラル機械翻訳の登場によって、翻訳会社では機械翻訳後のポストエディット(MTPE :Machine Translation Post-Editing)が一般的に行われるようになってきました。実際、人手翻訳に加えてMTPEを自社のサービスラインアップに加えている翻訳会社も増えており、人手による翻訳に比べて低コスト・短納期なことから注目を集めています。しかしその一方で、文書の性質の違いから、MTPEに向いている文書と向いていない文書があるのも事実です。今回は両者の違いについてご紹介します。

MTPEに向いている分野

人手翻訳のように時間とコストをかけずに手軽にできる機械翻訳のメリットはなんといっても、人が翻訳した場合に起こりえる用語の不統一や、表現のばらつきなどの問題を防いでくれる点です。機械翻訳では、指定した用語の通り、まさに機械的に翻訳文を反映してくれます。そのため、使用される用語の原文と訳文が1:1であらかじめ決まっており、定型文が頻出したりなど表記のルールやスタイルが決まっているタイプの文章は機械翻訳との相性がよいとされています。そのため、機械翻訳後のポストエディットの工程においても、ポストエディターは定型的なルールに沿って処理を行なえばよく、比較的処理しやすいと言われています。

そのため、MTPEは定型的な文書が頻出する分野と相性がよい傾向にあります。例えば、法律分野では、各種契約書、知財関連では、特許出願書類、IR関連文書では、決算短信や株主総会招集通知、医薬分野では医薬品安全性情報の報告書など、あらかじめ定型的なフォーマットが決まっており、用語も決まっている文書などです。文書のフォーマットや用語があらかじめ決まっているということは、ポストエディターがチェックするポイントも決まっているということであり、一般的に相性がよいとされています。

MTPEに向いていない分野

MTPEが苦手としている分野は定型的ではない文書であるといわれています。例えば、小説やエッセイなどの文芸翻訳や、映画やドラマなどの字幕翻訳、セールスプロモーションのためのマーケティング文書などはMTPEと相性が悪く、機械翻訳は使わずに最初から人手翻翻訳で行うことが一般的です。人の書く文章は、その文章が置かれた文脈やその解釈によって言葉の意味が違ってくることがあります。特に、文芸翻訳では言葉の微妙なニュアンスを汲み取って解釈し、翻訳するため、高度な読解力が必要となります。機械翻訳は言葉の意味の解釈や文脈の理解は行いません。機械翻訳は1:1の訳出には優れていますが、ある文章がどのような文脈に置かれているかについての複雑で多様な文脈理解や登場人物の心情の解釈などは行いません。

機械翻訳についての研究※1の中には、機械翻訳、MTPE、人手翻訳の3つの翻訳パターンの中で、どれが最も翻訳のクリエイティビティを発揮するかについて調べたものがあります。それらの研究によれば、フィクション作品のような文芸翻訳では、繊細なニュアンスやクリエイティブな表現は、機械翻訳によらない人手翻訳が最も優れていることを明らかになったとのことです。クリエイティビティを求められる翻訳が必要な場合には、人手翻訳の方がいいかもしれません。

まとめ

MTPEに向いている分野とそうでない分野について簡単に説明してきましたがいかがでしたでしょうか。翻訳対象のドキュメントにあわせてMTPEにするのか人手翻訳にするのか切り分けて考えるといいでしょう。

※1

  • Translators’ Perceptions of Literary Post-editing using Statistical and Neural Machine Translation
  • The Impact of Post-editing and Machine Translation on Creativity and Reading Experience